205 1.฀ は じ め に 1.1 目 的 本稿では,展示空間と感性の関わりを考察するため,近代 建築家ル・コルビュジエ(Le฀Corbusier฀1887-1965)の全パ ビリオン建築を対象として,その制作手法と変遷を明らかに する. 近代建築史において,美術館やパビリオン建築は素材的な 革新によって様々な新しい形式が生み出されてきたが,それ に伴って,鑑賞する人間の感性もまたそれまでとは異なった 様相を呈するようになると思われる.現代における展示空間 に対する感性については,ユーザーに関する様々な定量的分 析が可能であるが,感性哲学的研究の一つとして感性の歴史 性[1]を主題化するためには,展示空間に関する近代建築 家の制作手法を明らかにすることも重要であると思われる. 1.2 研究の方法 研究の方法として,『ル・コルビュジエ全作品集 Les฀œuvres฀ complètes』[2](以降,『全集』とする)及び Le฀Corbusier฀ Archives3](以降,『集成』とする)に掲載されている該 当図面及び言説を一次資料として用い,まず全パビリオン建 築に関する言説からパビリオン建築のコンセプトについて整 理した上で,建設方法の経年変化を分析することによって, パビリオン建築の発展過程を明らかにする.次に各パビリオ ン建築の特徴的な展示構成要素を抽出し,各要素の変遷を分 析する.以上の分析結果をもとに,感性と展示空間がどのよ うに関わり合うようになるのかを考察する. 1.3 研究の位置づけ 建築物を感性的に評価した研究として,長沢伸也氏らの一 連の経験価値に関する研究[45]がある.長沢氏らの研究は ユーザーの視点からの,建築に対する感性的評価が重視され ている.また一方で,デザイナーの感性に関する定量的研究 がある[6].本稿もまたデザイナー(建築家)の制作手法を 主題化するが,歴史的な建築家の建築制作を主題化すること によって,建築的な「感性」そのものを考察するという感性 哲学的な視点と建築史・意匠学的な研究方法論に特徴がある. なお,ル・コルビュジエのパビリオン建築に関する研究に ついては,美術館建築の研究に比べて少なく,建設法に関す る形態論が主であり,研究の蓄積も少ない[7]. 2.฀ パビリオン建築のコンセプト ル・コルビュジエのパビリオン建築作品は生涯を通じて計 画されており,場所に依存することなく様々な土地に計画さ れている.パビリオン建築において,ル・コルビュジエは「芸 術の総合(Synthèse฀des฀Arts)」[注 1]を提唱しており,絵画, 彫刻,建築等のジャンルの融合が志向されている.1950 の「ポルト・マイヨの展示館」はそれ以前に計画したパビリ オン建築の発展として計画されており,その後のパビリオン 建築に応用され,プロトタイプとして扱われるようになる(図 1).またパビリオン建築と同様にル・コルビュジエ自身の 研究の中でプロトタイプとして扱われている「無限に発展す る美術館(Musée฀à฀Croissance฀illimitée)」[注 2]への併設 によって美術館計画の全体系の中にも包含されている. プロトタイプ化が図られた「ポルト・マイヨの展示館」に 関する言説として『全集』の中で,「<総合の道場>として建 感性空間としてのル・コルビュジエのパビリオン建築 千代 章一郎*,益原 実礼** *広島大学大学院工学研究科准教授 • 博士 (工学)‚ **広島大学大学院工学研究科博士課程前期 Pavilions฀by฀Le฀Corbusier฀as฀Kansei฀Space Shoichiro฀SENDAI*฀and฀Mirei฀MASUHARA** *฀Assoc.Prof,,฀Graduate฀School,฀Hiroshima฀Univ.,฀Dr.Eng.฀1-4-1฀Kagamiyama,฀Higashihiroshima-shi,฀Hiroshima,฀739-8527,฀Japan **฀Graduate฀School฀,฀Hiroshima฀Univ.฀1-4-1฀Kagamiyama,฀Higashihiroshima-shi,฀Hiroshima,฀739-8527,฀Japan Abstract฀:฀ ฀The฀purpose฀of฀this฀paper฀is฀to฀clarify฀the฀architectural฀technique฀and฀its฀transition฀of฀the฀pavilions฀by฀the฀architect฀Le฀ Corbusier฀(1887-1965)฀to฀consider฀the฀relation฀of฀the฀exhibition฀space฀and฀the฀Kansei฀(sensibility)฀from฀the฀viewpoint฀of฀Kansei- philosophy.฀The฀genealogy฀of฀the฀pavilions฀by฀Le฀Corbusier฀is฀the฀process฀that฀the฀pavilions฀which฀have฀provisional,฀temporal฀and฀ flexible฀characteristics฀are฀established฀as฀original฀style.฀By฀extracting฀the฀characteristic฀elements฀of฀pavilion฀(the฀exhibit,฀the฀slope,฀ the฀roof฀garden,฀the฀wall฀painting,฀the฀revolving฀door฀and฀the฀natural฀surroundings)฀and฀analyzing฀the฀transition฀of฀each฀element,฀we฀ can฀point฀out฀the฀importance฀of฀the฀development฀of฀the฀slope฀which฀provides฀the฀divers฀views.฀That฀is฀to฀say,฀the฀pavilions฀with฀the฀ large฀span฀as฀“Exhibition฀space”฀become฀to฀“Kansei฀space”. Keywords฀:฀฀Le฀Corbusier,฀Pavilion,฀Exhibition,฀Slope,฀Kansei฀Space 日本感性工学会論文誌 Vol.9฀No.2฀฀pp.205-2132010 特集「第 11 回大会」 Received฀ 2009.05.20 Accepted฀ 2009.09.30 原著論文