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1. は じ め に
1.1 目 的
本稿では,展示空間と感性の関わりを考察するため,近代
建築家ル・コルビュジエ(LeCorbusier1887-1965)の全パ
ビリオン建築を対象として,その制作手法と変遷を明らかに
する.
近代建築史において,美術館やパビリオン建築は素材的な
革新によって様々な新しい形式が生み出されてきたが,それ
に伴って,鑑賞する人間の感性もまたそれまでとは異なった
様相を呈するようになると思われる.現代における展示空間
に対する感性については,ユーザーに関する様々な定量的分
析が可能であるが,感性哲学的研究の一つとして感性の歴史
性[1]を主題化するためには,展示空間に関する近代建築
家の制作手法を明らかにすることも重要であると思われる.
1.2 研究の方法
研究の方法として,『ル・コルビュジエ全作品集 Lesœuvres
complètes』[2](以降,『全集』とする)及び LeCorbusier
Archives[3](以降,『集成』とする)に掲載されている該
当図面及び言説を一次資料として用い,まず全パビリオン建
築に関する言説からパビリオン建築のコンセプトについて整
理した上で,建設方法の経年変化を分析することによって,
パビリオン建築の発展過程を明らかにする.次に各パビリオ
ン建築の特徴的な展示構成要素を抽出し,各要素の変遷を分
析する.以上の分析結果をもとに,感性と展示空間がどのよ
うに関わり合うようになるのかを考察する.
1.3 研究の位置づけ
建築物を感性的に評価した研究として,長沢伸也氏らの一
連の経験価値に関する研究[4, 5]がある.長沢氏らの研究は
ユーザーの視点からの,建築に対する感性的評価が重視され
ている.また一方で,デザイナーの感性に関する定量的研究
がある[6].本稿もまたデザイナー(建築家)の制作手法を
主題化するが,歴史的な建築家の建築制作を主題化すること
によって,建築的な「感性」そのものを考察するという感性
哲学的な視点と建築史・意匠学的な研究方法論に特徴がある.
なお,ル・コルビュジエのパビリオン建築に関する研究に
ついては,美術館建築の研究に比べて少なく,建設法に関す
る形態論が主であり,研究の蓄積も少ない[7].
2. パビリオン建築のコンセプト
ル・コルビュジエのパビリオン建築作品は生涯を通じて計
画されており,場所に依存することなく様々な土地に計画さ
れている.パビリオン建築において,ル・コルビュジエは「芸
術の総合(SynthèsedesArts)」[注 1]を提唱しており,絵画,
彫刻,建築等のジャンルの融合が志向されている.1950 年
の「ポルト・マイヨの展示館」はそれ以前に計画したパビリ
オン建築の発展として計画されており,その後のパビリオン
建築に応用され,プロトタイプとして扱われるようになる(図
1).またパビリオン建築と同様にル・コルビュジエ自身の
研究の中でプロトタイプとして扱われている「無限に発展す
る美術館(MuséeàCroissanceillimitée)」[注 2]への併設
によって美術館計画の全体系の中にも包含されている.
プロトタイプ化が図られた「ポルト・マイヨの展示館」に
関する言説として『全集』の中で,「<総合の道場>として建
感性空間としてのル・コルビュジエのパビリオン建築
千代 章一郎*,益原 実礼**
*広島大学大学院工学研究科准教授 • 博士 (工学)‚ **広島大学大学院工学研究科博士課程前期
PavilionsbyLeCorbusierasKanseiSpace
ShoichiroSENDAI*andMireiMASUHARA**
*Assoc.Prof,,GraduateSchool,HiroshimaUniv.,Dr.Eng.1-4-1Kagamiyama,Higashihiroshima-shi,Hiroshima,739-8527,Japan
**GraduateSchool,HiroshimaUniv.1-4-1Kagamiyama,Higashihiroshima-shi,Hiroshima,739-8527,Japan
Abstract: ThepurposeofthispaperistoclarifythearchitecturaltechniqueanditstransitionofthepavilionsbythearchitectLe
Corbusier(1887-1965)toconsidertherelationoftheexhibitionspaceandtheKansei(sensibility)fromtheviewpointofKansei-
philosophy.ThegenealogyofthepavilionsbyLeCorbusieristheprocessthatthepavilionswhichhaveprovisional,temporaland
flexiblecharacteristicsareestablishedasoriginalstyle.Byextractingthecharacteristicelementsofpavilion(theexhibit,theslope,
theroofgarden,thewallpainting,therevolvingdoorandthenaturalsurroundings)andanalyzingthetransitionofeachelement,we
canpointouttheimportanceofthedevelopmentoftheslopewhichprovidesthediversviews.Thatistosay,thepavilionswiththe
largespanas“Exhibitionspace”becometo“Kanseispace”.
Keywords:LeCorbusier,Pavilion,Exhibition,Slope,KanseiSpace
日本感性工学会論文誌 Vol.9No.2pp.205-213(2010)
特集「第 11 回大会」
Received 2009.05.20
Accepted 2009.09.30
原著論文