〔ウイルス 第 63 巻 第 1 号,pp.45-502013 はじめに フィリピンは日本から直行便で 5 時間足らずの距離に位 置する島国であり,ほぼ全土が1年を通して高温の熱帯気 候に分類される.人口は 2010 年の推計で 9 千万人を超え ており,人口の多くがカソリック教徒であることもあり, 今も 2%以上と人口増加率は高い水準にある.経済的には 発展してきているが,一方で貧富の格差も大きく,国全体 としての健康指標は十分に改善してきてはいない.たとえ ば, 5 歳未満の死亡率は 34.0(出生 1,000 当たり, 2008 年), 妊婦死亡は 162(出生 100,000 当たり,2006 年)となって いる 1 糖尿病,高血圧などの慢性疾患の問題が都市部を中心に 大きな問題となりつつあるのと,同時に結核,小児の肺炎 や下痢症などの感染症の問題もいまだに公衆衛生上の大き な課題であり,いわゆる Double Burden の状態にある. また,デング熱,髄膜炎菌,コレラ,レプトスピラ症など の流行は毎年のように起こっており,2008 年にはエボラ レストンウイルスがブタで検出されるなど 2 ,新興感染症 の観点から注目すべき事例も起きている.このようにフィ リピンにおいて感染症は大きな問題でありながら,これま で感染症に関する研究が十分に行われて来なかった. 東北大学大学院医学系研究科はフィリピンに感染症研究 の拠点を 2008 年に設置し,日本人研究者がフィリピンに 常駐し,研究活動を行ってきている. 東北大学フィリピン拠点の概要 東北大学医学系研究科のフィリピン拠点である,東北大 学―RITM 新興・再興感染症共同研究センター(Tohoku- RITM Collaborative Research Center on Emerging and Re-emerging Diseases )は 2008 年に,「感染症研究国際ネッ トワーク推進プログラム(Japan Initiative for Global Research Network on Infectious Disease J-GRID))の一環としてフィ リピン 熱 帯 医学 研 究 所(Research Institute for Tropical Medicine RITM))に設置された.RITM 1981 年に日 3. フィリピンにおける東北大学のウイルス研究の取り組み 谷 仁,齊 藤 麻理子,岡 本 道 子,玉 記 雷 太,神 垣 太 郎,鈴 木 陽 東北大学大学院医学系研究科・微生物学分野 連絡先 980-8575 宮城県仙台市青葉区星陵町 2-1 東北大学大学院医学系研究科・微生物学分野 TEL: 022-717-8210 FAX: 022-717-8212 E-mail: oshitanih@med.tohoku.ac.jp 特集 60 回日本ウイルス学会学術集会 シンポジウム5 海外拠点におけるウイルス感染症研究 東北大学医学系研究科は,感染症研究国際ネットワーク推進プログラム(J-GRID)による感染症 研究の拠点を,フィリピン・熱帯医学研究所(Research Institute for Tropical Medicine: RITM)に 2008 年より設置している.フィリピンの拠点では公衆衛生学的見地からフィリピンにおいて重要な 感染症を対象とし,感染症対策に貢献できるような研究を目指すことを基本方針としている.このた め研究プロジェクトの多くはフィリピン各地でのフィールドでの研究となっている.これまでに主に 取り組んできた研究プロジェクトとしては,小児重症急性呼吸器感染症に関する研究,インフルエン ザの疾病負荷に関する研究,狂犬病の分子疫学,小児下痢症患者でのウイルス検索などがある.この うちレイテ島での小児重症呼吸器感染症に関する研究では,重症肺炎で入院した小児のウイルスを中 心とした病因の検討を行ってきている.この間,Enerovirus 68 が小児重症急性呼吸器感染症の重要 な原因であることを見いだした他,Respiratory Syncytial VirusRSV)の分子疫学的解析,Human Rhinovirus(HRV) の病態の検討などを行ってきた.これらの研究の結果を基盤として,地球規模課題 対応国際科学技術協力(SATREPS)での小児肺炎に関する包括的研究をフィリピンにおいて 2010 より行っている.