『⽇本語⽂法』10 巻 1 号(2010 年)122-129 「方」名詞句と使役文における二重対格制約 * 田川拓海 (筑波大学人文社会科学研究科研究員) 要旨 本稿では,動詞句を名詞化する接辞「方」による名詞句の持つ,a)対応する動詞句 における格標示を忠実に反映させ,b)しかし,文法格(「が」「を」)は「の」でマー クされる,という性質を利用して,他動詞使役文における二重対格制約に関してこれ まで指摘されてこなかった現象とそこからの示唆を提示する。具体的には,他動詞使 役文の被使役主が「方」名詞句内では「の」でマークできないことが,他動詞使役文 における二重対格制約違反が対格の複数生起の問題ではなく,被使役主の認可の問 題である可能性を支持することを示す。さらに,他動詞使役文の被使役主が「への」 で表されることも許されないという事実が,名詞句がどのような形態格によっても マークされず,音形を持って現れることのできない例であることを提案する。 キーワード: 二重対格制約,「方」名詞句,使役文,格標示のギャップ The Double Accusative Constraint in Causatives and Kata Nominal Clause TAGAWA Takumi (Graduate School of Humanities and Social Sciences, University of Tsukuba) Abstract In a nominal clause which is nominalized by a suffix –kata, grammatical cases, nominative ga and accusative o are converted to the genitive case marker no. The causee of transitive- based causatives cannot appear in - kata nominal clauses although its existence does not constitute a violation of the double accusative constraint. This indicates that the double * 本稿の執筆に当たって,石田尊氏から貴重なご指摘をいただいた。記して感謝した い。また,有益なご指摘とコメントをくださった本誌の査読者の方々にも厚くお礼を申 し上げる。本稿における不備や誤りは全て筆者の責任である。