(83) 247 1.まえがき アントレプレナー・エンジニアリング研究会は,映像情 報メディア学会の時限研究会として 2000 年 12 月に設置さ れ,すでにその活動は 20 年を超えるに至っている.活動の 目的は,事業創造を目指すアントレプレナーシップ(起業 家精神)に基づき,技術戦略と経営戦略を統合し,技術 シーズから事業化に至る動的なプロセスにおける課題を見 出し,その課題に対する解を提供する方法論を体系化する ことである. 図1 は知識から市場に製品,あるいはサービスが提供さ れるまでのプロセスをまとめたものである.ここで示す事 業創造プロセスは,「技術シーズ」が「経営リソース」と結合 しながら市場に提供される「製品・サービス」に至る流れと, 「市場ニーズの認識」からシーズ側への上流への流れの二つ から形成されており,この二つの流れが交差するところが クリティカルな部分となっている.この部分はアントレプ レナーシップを触媒として新たな価値創造・新結合を生み 出す発火点とも考えられる 1) 本研究会は,事業創造プロセスに関する多様な事例研究 を通じて起業工学を確立するとともに,社会で活躍できる アントレプレナー育成に貢献することを目指し取り組んで いる. 本稿では,本研究会を取り巻く世の中の潮流を鳥瞰した 上で,本研究会の 2020 年 1 月から 2021 年 12 月の期間での 活動を振り返りまとめる. 2.本研究会を取り巻く潮流 本研究会が発足当初より注目しているキーワードにオー プンイノベーションがある.オープンイノベーションは, 自社の研究や技術のみで画期的な新製品(商品)・サービス を提供する,従来のクローズドイノベーションの限界を超 える新しい概念として,1990 年代から提唱され,2003 年に 米国ハーバード大学経営大学院の Henry W. Chesbrough 教 授により定義された 2) .ここでオープンイノベーションと は,組織内部のイノベーションを促進するために意図的か つ積極的に内部と外部の技術やアイデアなどの資源の流出 入を活用し,その結果組織内で創出したイノベーションを 組織外に展開する市場機会を増やすことである,とされた. その後,オープンイノベーションは,2013 年に欧州が提唱 を開始した新たなパラダイムであるオープンイノベーショ ン 2.0 に進化した.さらに近年,ビッグデータや AI 活用と いったディジタル経済の進展に対応して,オープンイノ ベーション 3.0 に進展しているのが現状と認識されている. ここでは,オープンイノベーション 2.0 さらに 3.0 への進 化の現状を紹介し,本研究会の進むべき方向性につきまと める. 2.1 オープンイノベーション 2.0 オープンイノベーション 2.0 の概念は,2013 年に欧州委員 会がダブリン宣言において,オープンイノベーションの新 たなパラダイムとして決議したことに端を発している 3)4) その後 Open Innovation 2.0 Conference が定期的に開催さ れ,Open Innovation 2.0 Yearbook ではその理論的説明や 事例紹介が行われた.前回・前々回の本報告において, †1 パナソニック株式会社 インダストリー社 †2 サンブリッジアクセラレート株式会社 †3 法政大学 大学院地域マネジメントシステム研究所 "Research Trends on Entrepreneur Engineering" by Tetsuzo Ueda (Panasonic Corporation, Industry Company, Osaka), Satoshi Kabasawa (SunBridge Accelerate, Inc., Tokyo) and Kazuhito Yamada (Graduate School Institute of Regional Management System, Hosei University, Tokyo) 映像情報メディア学会誌 Vol. 76, No. 2, pp. 247 ~ 250(2022) アントレプレナー・エンジニアリングの研究動向 映像情報メディア年報2021シリーズ(第8回) 上田哲三 †1 樺澤 哲 †2 山田一人 †3 価値創造(イノベーション)への挑戦 起業家精神 起業工学 自然科学 工学 社会科学 経営学 経営戦略 経営リソース 技術戦略 技術シーズ 新結合 複雑変換系 価値創造 事業 製品 サービス 市場 社会 図1 アントレプレナー・エンジニアリング研究会で提唱する事業創 造プロセス