1303 日本建築学会技術報告集 第 24 巻 第 58 号,1303-1307,2018 年 10 月 AIJ J. Technol. Des. Vol. 24, No.58, 1303-1307, Oct., 2018 DOI https://doi.org/10.3130/aijt.24.1303 没入型仮想空間における空間知 覚の研究 −パーソナルスペースの検討を想定した 距離の知覚と心理評価を対象として− A STUDY ON SPATIAL PERCEPTION IN IMMERSIVE VIRTUAL SPACE Perception and psychological evaluation of distance with consideration of personal space 山田悟史ーーーー *1 北本英里子ーーー *2 神長伸幸ーーーー *3 及川清昭ーーーー *4 キーワード: VR,空間体験,空間知覚,心理評価, ヘッドマウントディスプレイ (HMD) Keywords: Virtual reality, Space experience, Spatial perception, Psychological evaluation, Head mounted display (HMD) Satoshi YAMADAーーーー *1 Eriko KITAMOTOーーー *2 Nobuyuki JINCHOーーー *3 Kiyoaki OIKAWAーーー *4 In real space, 3D space seen on the display (DP space), and space seen on the immersive head head-mounted display (HMD space), the impressions of space and perceptions of distance are different. In this study, the t-test was carried out based on data obtained from experiments to clarify the difference of DP space and HMD space from real space. The results show that there is a signifcant difference between the DP space and the HMD space, and it became clear that the DP space gives a perception close to the real space. *1 立命館大学理工学部建築都市デザイン学科 任期制講師・博士(工学) (〒 525-8577 滋賀県草津市野路東 1-1-1) *2 立命館大学総合科学技術研究機構 研究員 *3 早稲田大学人間科学部人間情報科学科 助教・博士(教育学) *4 立命館大学理工学部建築都市デザイン学科 教授・工博 *1 Lecturer, Dept. of Architecture and Urban Design, Ritsumeikan Univ., Dr. Eng. *2 Researcher, National Institute of Science and Technology, Ritsumeikan Univ. *3 Assistant Prof., Faculty of Human Sciences, Waseda Univ., Ph.D. (Education) *4 Prof., Dept. of Architecture and Urban Design, Ritsumeikan Univ., Dr. Eng. 本稿は参考文献 10)をもとに加筆・修正したものである。 1.はじめに 都市や建築の空間を構成している要素(床,壁,柱,天井など) の寸法や素材は,人の行動や印象に影響を与えている。ゆえに,空 間を設計する際には形態や構成要素を綿密に検討する必要がある。 検討には,設計者及び関る人々が設計案の空間を体験するという手 段が頻繁に用いられる。コンピューター上の3次元空間内に設計案 を作成し,様々な視点から空間を体験しながら設計案を検討すると いう方法も一般化してきた。このような空間体験は BIM の普及によ りさらに一般化すると考えらえる。加えて近年では空間を体験する 方法として,仮想現実(VR)や拡張現実(AR)に対応したデバイス とアプリケーションが普及しつつある。本研究がテーマとする VR 用 のヘッドマウントディスプレイ(HMD)の利用においても,ゲームエ ンジンや対応アプリケーションの開発により,3 次元モデルがあれば 没入型仮想空間での空間体験が容易になりつつある。これらではこ れまで一般的であった設計案の空間をディスプレイ上で見て体験す るという手法と比較して,空間に没入したような体験が得られると して注目されている。加えて,現在CG・BIMなどの3次元モデルはディ スプレイ上で制作されることが多いが,設計者や施主が HMD を利用 した没入型仮想空間で空間を作成する技術も開発が進められている。 上述のような設計プロセスとしての空間体験は,現実での空間体 験・実際に竣工した際の空間体験と類似性が高いことが望ましい。 設計プロセスにおける没入型仮想空間の利用に期待されることの一 つは,このような現実空間での空間体験との高い類似性であると考 えられる。このような意図から既に様々な利用が試行・実用されて いる。しかし「没入型仮想空間という新しい技術を用いて空間を体 験した人は,設計に関る空間の要素に対して現実空間と類似した知 覚や印象を得るのか」という基礎的な知見が希薄な側面がある。設 計プロセスにおける空間体験として,没入型仮想空間という新技術 を活かした空間体験が,現実空間での体験との類似性という観点か ら,既往の手法に対して一概には優位であるとは言えない。そのため, 利点と欠点といった基礎的な知見に基づく体系的な位置づけが不明 確なままに応用・実用が進んでいる可能性があると言える。 空間知覚に関する研究では,安益ら 1) は実寸大の空間と模型を用 いて空間の明るさから受ける知覚の検討を行い,邉ら 2)3) は現実空間 と画像を用いて都市空間の圧迫感と開放感の検討を行っている。ま た長澤ら 4)5)6) は HMD を用いて高所における生理的ストレスの検討を 行っており,馬淵ら 7) は没入型仮想空間での物体までの距離と視野 角を変化させ空間知覚の精度検証を行っている。しかし,没入型仮 想空間が,模型およびディスプレイといった既往の空間体験手法に 対して,現実空間と類似した知覚や印象を得られるかを主題とした 研究は少ない。先駆的な取り組み 8) はあるが検証と知見は十分とは 言い切れず,本稿と同様の内容は筆者が知る限り見当たらない。新 たな技術の設計分野における有用な展開とさらなる発展には,新技 術の感覚的な優位性の共有に加え,定量的な解釈による既往の手法 に対する利点と欠点といった体系的位置づけも必要である。 以上から本稿は,没入型仮想空間における設計に関る空間要素に 対する知覚 ( 距離)・印象 ( 後述する心理評価項目 ) が,既往のディ スプレイを用いて知覚する手法と比較して現実空間と高い類似性を 有するのか,という視点から近年に普及しつつある新技術の優位性 を基礎研究として検証することを目的とする。