土木学会論文集 B2(海岸工学) Vol. 66,No.1,2010,1126-1130 間隙,せん断強度等の土砂物理環境が巣穴発達の臨界・ 最適・限界条件を支配していることを見出した(Sassa ・ Watabe,2008).さらに,このような生物住活動の最適・ 限界場が巣穴形成・潜砂・潜穴等の住活動の形態によら ず存在し生物種によって顕著に異なることを明らかにし ている(佐々ら,2009a,2009b).本研究は,上述のよう な干潟の生態地盤学を砂浜潮間帯に展開したものである. 砂浜潮間帯に生息する潜砂性の小型甲殻類は,ホシガレ イやメナダなどの水産有用種をはじめ多種多様な魚類の重 要な餌資源となっている(Takahashi ら,1999 ;首藤, 2002 ;梶原・高田,2008).また,同時にシギ・チドリな どの渡り鳥の餌にもなっており(Brown ・McLachlan, 1990), 海岸の掃除屋としても,美しい砂浜の保全に多大な貢献を 成していることが知られている.しかし,これらの餌資源 生物の密度と水温・塩分・粒度・勾配等の既往の各環境要 因の間には有意な相関が認められず(James ・Fairweather, 1996),その生息分布を規定する要因については,様々な 時空間スケールのものが介在するとして未だよくわかって いないのが現状である(Defeo ・McLachlan,2005). 一方,梶原・高田(2008)は,砂浜の小型甲殻類を対象 とした室内実験により,地盤内部の物理環境がその潜砂行 動の可否に多大な影響を及ぼすことを明らかにしている. 本研究は,以上を背景として,筆者らの構築した生態 地盤学手法を新潟県の3 つの海浜に展開し,上述の問いに 答えることを目的としている.そして,干潟と砂浜の保水 動態機構に関する近年の知見(佐々ら, 2007)も踏まえて, 砂浜潮間帯の底生生物の住環境について一般化するととも に,従来研究が欠けていた生物住活動の最適・限界場の観 点から現地調査及び室内試験結果の分析と考察を行った. 砂浜海岸における水産有用魚類の餌資源生物分布に果たす サクションの役割 Role of Waterfront Suction in the Distribution of Food Organisms for Coastal Fish 佐々真志 1 ・梁 順普 1 ・渡部要一 1 ・梶原直人 2 ・高田宜武 3 Shinji SASSA, Soonbo YANG, Yoichi WATABE, Naoto KAJIHARA and Yoshitake TAKADA Benthos such as Amphipoda living in coastal sandy sediments are important food organisms for fish, but, factors controlling their distributions remain poorly understood. Here, we aim to solve this question by introducing our new approach encompassing ecology, geophysics and hydraulics / geotechnics. We performed sets of integrated observations / surveys and analyses concerning the in situ intertidal geoenvironments and the benthos distributions at three natural coasts. The results demonstrate that the waterfront suction governs the variety of the habitat environments, involving a range of the degree of saturation, stiffness and void state, and the manifestation of the peak and critical area of densities for the three dominant species are uniquely determined by the magnitudes of such suction which are found to be particular to species throughout the coasts. These findings will effectively contribute to the conservation and management of fishery resources at sandy coasts. 1. はじめに 大気,海,地盤が出会う場である潮間帯は,豊かな底 生生物を育み高い水質浄化能を有する沿岸自然環境の重 要構成要素である(国土交通省港湾局,2003).そのた め,生態系や水質・水理環境を対象として,国内外にお いて生態学,海岸工学,水質化学等の分野から活発に研 究がなされてきており,主に生物の食活動や水循環過程 について数多くの知見が蓄積されている.しかし,底生 生物の住環境を担う地盤表層の土砂環境については,従 来,研究が実質的に進んでおらず理解が乏しく留まって いた背景があった. 筆者らは,このような隘路を切り開くために,干潟地 盤表層の土砂環境場を体系的に捉えうるモニタリング・ 評価手法を開発し,観測・実験・解析の協働によって, 土中水分張力を表すサクションを核とした土砂環境動態 が,多様な底生生物の住環境の時空間変化をもたらす本 質的な役割を果たしていること,ならびに,生物住活動 と土砂物理環境の間に密接な関わりがあることを世界に 先駆けて解明し,工学・理学・生態学の学際新領域“生 態地盤学”を開拓・推進している(佐々・渡部,2005, 2006,2007,Sassa ・Watabe,2007,2008,2009 ;佐々ら, 2007,2008,2009a,2009b).特に,砂質干潟の代表的な 底生生物であるコメツキガニを対象として,サクション, 1 正会員 博(工)(独法)港湾空港技術研究所 2 (独法)水産総合研究センター日本海区 水産研究所 3 博(理)(独法)水産総合研究センター日本海区 水産研究所